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この日のために、私はこっそり準備を進めてきた。
彼の部屋の合鍵は、ずっと前に「いつでもおいで」と渡されていたものだ。
ドキドキしながらドアを開けると、部屋は薄暗かった。湊はまだ帰っていないみたい。完璧なタイミング。
私はそっと明かりをつけずに中へ入る。サプライズだから、電気はつけない。
買ってきたばかりの、繊細なレースがあしらわれた黒のランジェリーに着替える。肌を滑るシルクの感触に、自分でも少し大胆すぎたかと顔が熱くなる。
でも、湊はきっと喜んでくれるはず。最近、少しマンネリ気味だった私たちの関係に、新しい刺激が欲しかった。
リビングのソファに、買ってきたケーキと小さなプレゼントをそっと置く。
そして、彼の寝室へ向かった。
案の定、ベッドには彼らしい膨らみ。きっと仕事で疲れて先に寝てしまったんだわ。
「もう、寝ちゃったの?」
私は甘えるように囁きながら、ベッドに滑り込んだ。
彼の背中にぴったりと体を寄せる。がっしりとした背中。いつもの湊の匂い…とは少し違う気もするけど、きっと疲れているせいだ。
「湊…起きて。プレゼントがあるんだよ」
私は彼の首筋に顔をうずめ、そっとキスを落とす。
彼の肩が微かに震えたのが分かった。
「ん…」
低い、掠れた声。やっぱり眠りが深いみたい。
私はもっと大胆に、彼の上にそっと跨ってみた。彼の驚く顔が見たくて、耳元で囁く。
「一周年、おめでとう…湊」
彼の体が強張った。その反応が、いつもと違う。
私の胸が早鐘を打つ。呼吸が乱れるのを感じる。
もっと、もっと彼を感じたい。そう思った瞬間だった。
カチャリ。
玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー。あれ、蓮(れん)?電気もつけずにどうした?」
湊の声だ。
え?
湊?
じゃあ、今、私に抱きつかれているこの人は…誰?
血の気が引くのを感じた。頭が真っ白になる。
「…っ!」
私は悲鳴を飲み込み、慌てて彼の上から飛び降りた。
暗闇でよく見えなかったその人は、ゆっくりと身を起こす。
窓から差し込む月明かりが、彼のシルエットをぼんやりと照らし出した。
湊よりも少し、背が高い…?
「楓(かえで)?来てるのか?」
リビングから湊の声が近づいてくる。まずい!
「だ、誰…あなたは…?」震える声で目の前の男に尋ねる。
「…湊のルームメイトの、蓮だ」
静かで、低い声だった。
ルームメイト?湊にルームメイトがいたなんて、聞いてない!
パニックになりそうな頭で、私は咄嗟に動いた。
「ご、ごめんなさい!隠れて!」
そう言うと、私は寝室のクローゼットに飛び込んだ。
蓮と名乗った男は、何も言わずにそれを見ていた。いや、一瞬、呆れたような顔をした気もする。
ガチャリとクローゼットのドアを閉める直前、彼が小さく息を吐くのが聞こえた。
「蓮、楓見なかったか?連絡したんだけど」
湊が寝室に入ってくる気配。心臓が口から飛び出しそうだ。
「いや、見てない。一人で帰ってきたのか?」
蓮の声は、驚くほど冷静だった。
「そうか…おかしいな。サプライズでもあるのかもな」
湊はそう言うと、鼻歌交じりに部屋を出て行った。シャワーでも浴びるつもりだろうか。
しばらくして、クローゼットのドアがそっと開いた。
蓮だった。
「…今のうちに行った方がいい」
「あ、ありがとう…ございます。あの、本当に、ごめんなさい!」
私は胸元をきつく押さえながら、小声で謝った。顔が燃えるように熱い。こんな失態、ありえない。
彼は黙って頷くだけだった。その表情は暗くてよく見えない。
私は逃げるように彼の部屋を飛び出し、自分のアパートへと走った。
一体、何てことをしてしまったんだろう。
あの時の、彼…蓮さんの肌の感触。硬い筋肉。そして、私に触れられた時の、彼の息遣い。
思い出そうとするだけで、顔から火が出そうだ。
彼は、どう思ったんだろう。
怒っている?それとも、呆れている?
いや、それよりも、湊にバレなかったことだけが救いだ。
そう、これは私の完全な勘違い。誰にも知られてはいけない、秘密。
そう自分に言い聞かせるのに、さっきまで感じていた、知らない男の温もりが、妙に生々しく体に残っていて、私の心を掻き乱すのだった。

