










































(私はシルビア、運命の導き手の代行者。家族を再興させるのに必要な資源と力を手に入れるため、「運命の導き手」と魔法の契約を結び、さまざまな任務を強いられている。)
(そして、今回の任務は、この帝国で最も古く、かつ最も強大な魔法貴族「モーニングスター家」の継承者を攻略すること。)
(いろんな苦労をして、ようやくサミュエル・モーニングスター、モーニングスター家の第一継承者と恋人関係になりかけたとき。)
「絆の値はどうなっているの?」
シルビアは運命の導き手とに連結して、問いかけた。
「あらら、現時点で代行者との絆の値を上昇させている対象は、攻略対象ではありませんよ。」
「何だと?」
頭の奥から響く契约霊の声は、まるで猫が獲物を弄ぶような愉しげな調子だった。
「代行者シルビア、あなたが攻略すべきのは、双子の弟であるシリアン・モーニングスターです」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?」
内心で運命の導き手を罵倒するが、今はそれどころではない。なぜなら、サミュエルは起きているからです。
ベッドの隣で。
「起きたのか?」
後ろから低い声が響く。サミュエルの声は昨夜の渦巻く魔力の余韻で少しかすれていて、それでも北境の氷河のような存在感を放っていた。
腰に回ってきた手は意外と暖かい。魔法貴族特有の冷たい肌触りが、薄い絹の寝衣越しに伝わる。指が骨ごと優しく揉み込むように動く瞬間、シルビアは思わず上半身を起こしてその手を避けた。
サミュエルの手が半空中で静止した。月光が長い睫毛に当たって、一瞬、暗い影が翡翠の瞳に流れ込むのを見逃せなかった。その次の瞬間、彼は静かにシルビアを見上げた。
氷のような青い瞳はまだ紅みを残している。ふっと、昨夜、この瞳が涙で曇ってる様子を思い出す。
誰が想像できるだろう… この「北境の霜星」が、己の尊厳を捨てて呜咽く姿を。
彼が「貴方のものです」と喘ぎながら懇願している姿のを思い出すと、耳が熱くなる。
それでも最後に喘いで助けを請んだのはシルビアだったのに。
「怒っているのか?」サミュエルが手を引き返し、肩が少し落ち込む。
普段の高慢さが跡形もなく消え、まるで主人に嫌がられた子犬のようだ。
「ごめん。次からはもっと優しくするから…」
「代行者、結構楽しんでいたようですが。」頭の中の契约霊が舌打ちした。「昨夜、どんなに興奮していたか忘れたのか?『男の涙は最高の魅惑魔法』なんて言っていたのは誰だ?」
全くもって恥ずかしい。
(だが私のせいではない。)
(だって、ミュエルのような清冽な顔をしながら、ベッドの上で咽び泣きをしているという、絶妙な反差に抗える女はどこにも存在しないんだよ。)
そう思うと、シルビアは突然、少し慌ててしまった。
サミュエルは、最も欺きと裏切りを嫌い性格だった。
そして、シルビアは任務のため、彼を騙したのだ!
どうやって彼に打ち明けたらいい?
それとも隠し通す?
「代行者、残りの攻略時間は多くないですよ。」
「真の攻略対象はもうすぐ帝国に帰ってきます。攻略の準備をして、自業自得で頑張ってくださいね~」
「運命の導き手」は頭のなかに笑った。
なんとかしないと。
数日後、シルビアはサミュエルに帝都へ向かう許しを乞うた。
「サミュエル様、実は私、一族の用事で帝都にいる魔法学者の方を訪ねなければならないのです」
「帝都へ? 私も行こう」
案の定、サミュエルは犬のように私について行こうとした。彼と「恋人」になったあと、この「北境の霜星」はすっかり私に懐いていた。
「いけません、サミュエル様。あなた様はのような魔力が強い人がくると混乱になちゃう。その学者はとても気難しい方で……」
シルビアは巧みな口実で彼を説得した。サミュエルは不満そうだったが、最終的には渋々頷いた。
出発の朝、サミュエルはシルビアの首筋にそっと触れた。
「これは、北方の古い習わしだ。大切な者に印を残す」
彼の指先から、冷たい魔力が流れ込んでくる。一瞬、肌にピリリとした痛みが走ったが、すぐに消えた。
「これで、どこにいても君を感じられる」
サミュエルの瞳には、奇妙なほどの独占欲が浮かんでいた。シルビアは微かな不安を覚えたが、今は彼の機嫌を損ねるわけにはいかない。
「まあ、素敵ですわ。サミュエル様」
「帝都で一番美しい星屑花を、私への土産にしてくれ」
「え?はい。」
(星屑花……ね。何か意味があるのかしら?)
そうしてシルビアは帝都へ向かった。表向きは求学中の貴族令嬢として振る舞い、王立魔法学院から戻ってきたばかりのシリアン・モーニングスターに接触を試みた。
シリアンは、噂通りの「暁の王子」だった。優雅で、純粋で、まるで乙女ゲームから抜け出してきたような青年。
シルビアの「偶然の」出会いにも、彼は初々しい喜びと羞恥心を見せ、すぐに打ち解けた。
シルビアのこっちの攻略も順調だ。
彼は王宮の庭園で、朝露に濡れたバラをシルビアのために摘んでくれた。魔法交流会では、暴走した魔法からシルビアを庇ってくれた。その全てが計算され尽くしているのかもしれないと知りつつも、シルビアはその甘い罠に、あえて身を委ねた。
ある夜、王宮の夜会で、シルビアはシリアンと楽しげに談笑していた。彼の優しい言葉、純粋な眼差し。少しだけ、本当に心が揺らぎそうになる。
その時だった。
首筋に残されたサミュエルの印が、微かに熱を持った。魔法の伝令だ。
(サミュエル様から……!?)
シルビアは慌てて人目につかないバルコニーへ移動し、小さな声で応答した。
「サミュエル様……?どうかなさいましたの?」
『……シルビアか。どこにいる?』
サミュエルの声は、少し掠れていた。
「あ、今、王立図書館で古い文献を調べておりまして……」
とっさに嘘をついた。まさか彼の弟と密会しているとは言えない。
その瞬間、宴会場の方から大きな物音が響いた。貴族の一人が、魔法の余興で怪我でもしたのだろうか。悲鳴と怒号が混じり合う。
「きゃっ!」
シルビアは思わず、小さく声を上げてしまった。
電話の向こうで、サミュエルが黙り込んだ。
痛いほどの沈黙。
バレたか?
図書館にこんな音がするはずはないし。
シルビアの心臓が、嫌な予感に早鐘を打つ。
やがて、サミュエルは何も言わずに、一方的に魔法伝令を切った。その切り方は、まるで氷のように冷酷だった。
(まさか……気づかれた……?)
バルコニーの冷たい風が、シルビアの頬を撫でる。---
王宮の夜会での一件以来、シルビアの胸には常に微かな不安がつきまとっていた。サミュエルからの魔法伝令は途絶えたままだが、それが逆に嵐の前の静けさのように感じられた。
(サミュエル様は、きっと何か感づいているわ……でも、今はシリアン様との関係を進めるのが先よ)
シルビアは気持ちを切り替え、シリアンへの「攻略」に集中した。彼は変わらずシルビアに優しく、その純粋な好意は、シルビアの警戒心を少しずつ解きほぐしていくかのようだった。
数日後、シリアンはシルビアを郊外にある彼の別荘へと誘った。
「シルビア、今夜は月がとても美しいそうだ。僕の別荘で、一緒に月を眺めないか?」
その誘い方はあまりにも自然で、疑う余地もなかった。むしろ、これは絶好の機会だ。運命の導き手によれば、シリアンとの絆の値は着実に上昇している。今夜こそ、決定的な何かを起こし、彼との関係をさらに深める時かもしれない。
「喜んで、シリアン様」
シルビアは微笑んで頷いた。
シリアンの別荘は、森の中に佇む、こぢんまりとしながらも洗練された建物だった。月の光が庭園を銀色に染め、幻想的な雰囲気を醸し出している。
夕食の後、二人は暖炉の燃える居間でワインを酌み交わした。シリアンはシルビアの好きな詩を諳んじ、彼女の瞳を熱っぽく見つめた。
「シルビア……君と出会ってから、僕の世界は色鮮やかになったんだ」
その言葉は、まるで芝居の台詞のようだったが、彼の真摯な表情は、それが本心であるかのようにシルビアに思わせた。
(そろそろ、かしら……)
シルビアは、わざとワインを飲み干し、ふらつくふりをした。
「あら……少し、飲みすぎたみたい……」
「大丈夫かい、シルビア?」
シリアンが心配そうに駆け寄り、シルビアの肩を支える。彼の腕は逞しく、その温もりがシルビアに伝わってくる。
「シリアン様……少し、お部屋で休ませていただいても……?」
上目遣いに彼を見つめるシルビア。その瞳には、熱と誘惑の色が浮かんでいた。
シリアンは一瞬息を呑んだようだったが、すぐに優しく微笑んだ。
「もちろんさ。さあ、こちらへ」
彼はシルビアを支え、寝室へと導いた。豪華だが落ち着いた雰囲気の部屋。ベッドには柔らかなシーツが敷かれている。
シリアンがシルビアをベッドに横たわらせようとした瞬間、シルビアは彼の首に腕を回し、その唇を奪った。
「ん……っ」
シリアンは驚いたように目を見開いたが、すぐに情熱的に応えてきた。彼のキスは、サミュエルのそれとは違い、甘く、焦がれるような熱を帯びていた。
(これで、絆の値は一気に……!)
シルビアがシリアンのシャツに手をかけ、さらに深い関係へと進もうとした、その時だった。
ドンッ!!
部屋の扉が、凄まじい轟音と共に弾け飛んだ。
「!?」
粉塵と冷気が渦を巻き、その中心に立っていたのは――
「サミュエル……様……!?」
氷の仮面を被ったかのような、冷酷な表情のサミュエル・モーニングスターだった。彼の全身からは、凍てつくような魔力が放出され、部屋の温度が急速に下がっていく。そのアイスブルーの瞳は、怒りと裏切られた苦痛で燃えているかのようだった。
彼は、シルビアの嘘を全て見破っていたのだ。
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6.修羅場と決裂
「……何をしている?」
サミュエルの声は、地響きのように低く、部屋の空気を震わせた。その視線は、シルビアとシリアンに交互に注がれ、まるで獲物を前にした捕食者のようだ。
シリアンは驚いた表情で兄を見つめ、慌ててシルビアから身を離した。
「兄様……!? どうしてここに……?」
「黙れ、シリアン」
サミュエルは弟を一瞥もせず、真っ直ぐにシルビアへと歩み寄る。その足取りは重く、一歩ごとに床が軋む音を立てた。
シルビアは恐怖で身が竦み、声も出なかった。サミュエル様はなぜここに? しかも、これほどの怒りを露わにして……。
「シルビア……貴様、私を……いや、我々兄弟を弄んでいたのか?」
サミュエルの手が伸び、シルビアの顎を強く掴んだ。その指は氷のように冷たく、シルビアは思わず顔をしかめた。
「や……やめて……サミュエル様……」
「なぜだ? なぜこんな真似をした? 私を騙して、弟にまで色目を使うとは……随分と遊んでくれたものだな!」
彼の言葉は、鞭のようにシルビアの心を打ち据える。
「違う……これは……誤解ですわ……!」
「誤解だと? この状況を見て、まだそんなことが言えるのか!」
サミュエルの怒りは頂点に達していた。彼はシルビアの腕を掴み、ベッドから引きずり下ろそうとした。
「兄様、おやめください! シルビアは……!」
シリアンが止めに入ろうとするが、サミュエルは彼を睨みつけた。
「シリアン、お前も同罪だ。この女の嘘に気づかなかったのか? それとも……共犯か?」
「そ、そんな……!」
サミュエルは嘲るように鼻を鳴らし、再びシルビアに向き直った。その瞳には、侮蔑と、そしてどこか歪んだ喜びのような光が宿っていた。
「いいだろう……そんなに男が好きなら、二人で同時に可愛がってやろうか? シリアン、お前も参加しろ。この女がどちらの『愛撫』をより好むか、試してみるのも一興だろう?」
「な……何を……!」
シルビアは顔面蒼白になった。彼の口から出た言葉は、あまりにも屈辱的で、信じられないものだった。これが、あの冷静沈着なフロストスター公爵の本当の姿だというのか?
恐怖と羞恥で、シルビアの全身が震える。だが、このまま黙って侮辱されるわけにはいかない。
「あなただって……! あなただって私を騙していたじゃないの! 知っていたら、なぜそれを言わなかったの!?」
必死の反論だった。だが、それはサミュエルの怒りの炎に油を注ぐだけだった。
「黙れ! 貴様のくだらない芝居に付き合ってやっただけだ!」
サミュエルはシルビアを壁に押し付け、その唇を乱暴に塞ごうとした。
「いやっ……!」
シルビアが抵抗すると、サミュエルは懐から魔法の通信水晶を取り出した。
「ほう……抵抗するか。ならば、シリアンに『見学』させてやろうか? お前が私に懇願する様を、一部始終な」
その言葉は、シルビアの最後の砦を打ち砕いた。これ以上の屈辱には耐えられない。
「……もう、やめて……」シルビアの声は掠れていた。「サミュエル様……あなたとの……魔法契約上の関係は……全て、解除させていただきます……!」
それは、実質的な別れの言葉だった。このゲームからの離脱宣言。
その瞬間、シルビアの身体を激しい痛みが襲った。まるで魂を引き裂かれるような感覚。契約反噬(コントラクト・リパルション)の初期症状だ。任務が失敗に近づき、シルビアの精神が極限まで追い詰められたことで、契約の力が彼女を蝕み始めたのだ。
「うっ……あ……!」
シルビアはその場に崩れ落ちそうになる。魔力が急速に失われていくのが分かった。
「シルビア!」
その時、「ちょうどよく」シリアンが駆け寄り、シルビアをサミュエルの腕から引き離した。
「兄様、もう十分でしょう! シルビアはこんなに苦しんでいる!」
シリアンはシルビアを抱きかかえ、サミュエルを睨みつけた。その瞳には、兄への明確な敵意が浮かんでいた。
サミュエルは、苦痛に顔を歪めるシルビアと、彼女を庇うシリアンを交互に見つめ、やがて、凍てつくような声で言った。
「……いいだろう。そこまで言うのなら、連れて行け。だがな、シルビア……」
彼はシルビアに向かって、意味深な言葉を投げかけた。
「よく見ておけ。月の光の下にあるのは、美しいものだけではない。その影に潜むものこそが、真実かもしれんぞ」
シルビアは、朦朧とする意識の中で、その言葉の意味を理解しようとした。だが、今はただ、この場から逃げ出したい一心だった。
シリアンはシルビアをしっかりと抱きしめ、囁いた。
「大丈夫だよ、シルビア。僕が君を守る」
その声は、絶望の淵にいたシルビアにとって、唯一の救いのように聞こえた。
シルビアは、力なくシリアンに頷き、彼に身を任せた。
サミュエルの冷たい視線を背中に感じながら、シルビアはシリアンと共に、その修羅場と化して部屋を後にした。絆の値は、サミュエルとの間では完全にゼロになり、シリアンとの関係も、予測不能な方向へと進み始めていた。
そして、シルビアの身体を蝕む契約反噬の痛みは、これから始まる更なる苦難の序章に過ぎなかった。
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7.優しい檻と停滞する絆
サミュエルとの壮絶な決裂の後、シルビアはシリアンに保護される形で彼の別荘に留まることになった。あの夜の出来事はシルビアの心に深い傷を残し、契約反噬(コントラクト・リパルション)による魔力の流出と魂の痛みは、未だに彼女を苦しめていた。
「シルビア、顔色が悪いよ。無理しないで、ゆっくり休んで」
シリアンは、まるで壊れ物を扱うかのようにシルビアを気遣った。彼は毎朝、シルビアの好きな花を部屋に飾り、彼女が好む甘いお菓子を用意し、夜には優しい声で物語を読んで聞かせた。
その献身的な態度は、傷ついたシルビアの心を少しずつ癒していくように思えた。
(シリアン様は……本当に優しいのね……サミュエル様とは大違いだわ……)
シルビアは、意識的にサミュエルのことを考えないようにした。あの冷酷な瞳、屈辱的な言葉を思い出すたびに、胸が締め付けられるようだったからだ。
シリアンの優しさに包まれる日々の中で、シルビアは彼に「恋人」として振る舞った。甘い言葉を囁き、彼に寄り添い、時には情熱的なキスを交わした。それは、任務を遂行するためであり、そして何よりも、この優しい檻の中で少しでも安らぎを得るためだった。
ある月夜の晩、シルビアはシリアンに「告白」した。
「シリアン様……私、あなたのことが……好きです」
それは、計算された言葉だった。しかし、彼の喜びに輝く瞳を見ていると、ほんの少しだけ、罪悪感が胸をよぎった。
「シルビア……僕もだよ。君のことを、心から愛している」
シリアンはシルビアを強く抱きしめ、その唇に深いキスを落とした。二人の関係は急速に進展し、表面的には理想的な恋人同士に見えた。
運命の導き手(パクトエルフ)が告げる絆の値も、順調に上昇している。
『シリアン・モーニングスターとの絆、80%……85%……』
(よし……この調子なら、すぐに100%になるわ……!)
シルビアは安堵しかけた。だが――
『シリアン・モーニングスターとの絆、90%』
その数字を最後に、絆の値はぴたりと止まってしまったのだ。
「……え? どうして?」
シルビアは内心で焦った。何日経っても、どんなにシリアンと親密に過ごしても、絆の値は90%から一向に動かない。
『原因不明。対象者の深層心理に何らかのブロックが存在する可能性があります』
運命の導き手の言葉は、シルビアの不安を煽った。
(ブロック……? シリアン様の深層心理に……?)
彼はいつも穏やかで、シルビアに対して何の隠し事もないように見える。だが、あの完璧すぎる優しさの裏に、何かがあるのだろうか?
サミュエルの言葉が、不意に脳裏をよぎった。
『月の光の下にあるのは、美しいものだけではない。その影に潜むものこそが、真実かもしれんぞ』
シルビアは微かな寒気を覚えた。シリアンの優しさは、まるで美しい月光のようだ。だが、その光が強ければ強いほど、影もまた濃くなるのではないだろうか。
ある日、シルビアはシリアンに尋ねてみた。
「シリアン様……あなたには、何か悩み事でもあるのですか? もしよろしければ、私に話してほしいのですが……」
シリアンは一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの優しい笑顔に戻った。
「悩み事? まさか。君と一緒にいられるだけで、僕は毎日幸せだよ、シルビア」
その答えは完璧だった。だが、シルビアには、彼の瞳の奥に一瞬だけ、何か暗い感情がよぎったように見えた。
(何かを……隠している……?)
絆の値が90%で止まってしまった原因は、そこにあるのかもしれない。だが、どうすれば彼の心の奥底に触れることができるのだろうか。
シリアンは、シルビアをまるで鳥かごの中の小鳥のように大切にした。彼はシルビアに不自由な思いはさせなかったが、その優しさは、時として息苦しいほどの束縛感を与えることもあった。
別荘の庭は美しく手入れされていたが、シルビアが一人で散策しようとすると、必ずシリアンが付き添った。彼女が誰かと手紙のやり取りをしようとすれば、彼はさりげなくその内容を確かめようとした。
(これは……本当に愛情なのかしら……それとも……)
シルビアの心に、新たな疑念が芽生え始めていた。シリアンの優しさは、本当に純粋なものなのだろうか。それとも、巧妙に隠された独占欲の現れなのだろうか。
停滞した絆の値。そして、シリアンの見えない「檻」。
シルビアは、自分が再び大きな過ちを犯しているのではないかという不安に苛まれ始めた。サミュエルとの決裂で負った傷はまだ癒えず、新たな壁が彼女の前に立ちはだかろうとしていた。
果たして、シルビアはシリアンの心の奥底に隠された真実を見抜き、任務を達成することができるのだろうか。それとも、この優しい檻の中で、永遠に囚われ続けることになるのだろうか。
シルビアの苦悩は、まだ始まったばかりだった。

